株式会社IMAGICA GROUPは、創業90周年の節目となる2025年に、自社初となる「オリジナル映画製作プロジェクト」を発足。5月14日、その第1弾作品『マリア』を第78回カンヌ国際映画祭で発表した。
毎年1本、才能発掘と国際映画祭出品を視野に
同プロジェクトは、IMAGICA GROUPグループ内から映画企画を公募し、国際映画祭での出品や受賞を見据えた1作品を毎年選出・製作するという取り組みで、今後5年間にわたって継続される予定(外部クリエイターは同社グループのプロデューサーとチームを組ことによって応募可能)。
最終審査員には、カンヌでパルムドールを受賞した是枝裕和監督、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、川喜多記念映画文化財団常務理事の坂野ゆか氏が務め、第1弾には、社内公募で集まった88企画の中から選ばれた『マリア』が選定された。

監督とプロデューサーは1993年生まれの寺田ともか氏と土川はな氏
『マリア』は、福祉の網の目からこぼれ落ちた若者たちが、社会の隙間を生き抜く姿を描く。主人公の永田マリア(18歳)は、工業地帯の片隅で訪問介護ヘルパーとして働いているが、予期せぬ妊娠により生活が一変する。頼れる相手も金もなく、孤立したマリアが出会うのは、ドラッグディーラーの少年・金井ケン(19歳)と、その幼い妹。3人の奇妙な共同生活が始まる。
物語は、貧困、高齢化、家族の崩壊、記憶から消えゆく戦争の傷といった社会課題を背景に進行しながら、マリアの内面の変化と青春の一瞬のきらめきを描き出す。
脚本・監督を手がけるのは、社会福祉士としての現場経験を持つ1993年生まれの寺田ともか氏。2020年から分福に所属し、是枝裕和監督らのもとで映画制作を学んでおり、『マイスモールランド』や『怪物』に監督助手として参加している。

プロデューサーは、同じく1993年生まれの土川はな氏(OLM所属)。三池崇史監督作品や海外との共同制作にも携わってきた実績を持ち、若き才能の結集として注目されるタッグとなった。
IMAGICA GROUPは、本プロジェクトを今後も継続し、2025年夏には第2弾の企画募集を開始する予定だ。
寺田ともか氏のコメント
生まれてはじめて書いた、まだとてもつたない脚本ですが、映画化のチャンスをいただき、本当にうれしく思います。この物語の中に出てくる登場人物には、私が育ちの中で出会った人、福祉現場で働く中で出会った人たちの姿が溶け込んでいます。だから、大半はわたしが書いたというよりも、出会ってくれた人たちの声や眼差しや匂いや、そういうものでできている気がしています。恰好つけてるみたいで恥ずかしいのですが、私の中には何もないので、本当にそうです。彼らは、何も知らなかった私に、フードバンクから配られるパンを最高に美味しく食べる方法を教えてくれ、若気の至りで入れたという刺青の意味を語ってくれました。それは、同情的な目線を跳ね返す、鮮やかな色をしていました。彼女らは私に、逆説的に世界を見ることを教えてくれ、それは、映画を見るという行為にとてもよく似ていました。すべてを失った朝、それでも人生は続いていくこと。絶望的な時ほどユーモアが必要だということ。
傷から生まれる物語を書きたいと思いました。ある状況に置かれた個人の傷を悲惨に映すことで、社会に何かを訴えようとか、そういうものではなくて。いつか傷が治ることへの希望や慰めでもなくて。傷からでなければ生まれなかった物語を、この手で書いてみたいと思いました。これから頑張って撮影に臨みますので、どうか力を貸していただけますと幸いです。
土川はな氏のコメント
この「IMAGICA GROUPオリジナル映画製作プロジェクト」が始動した当初、オリジナル作品として「何か形にできれば」という思いで一歩を踏み出しました。そしてその過程で、多くの才能あふれるクリエイターたちと出会えたことは、私にとってかけがえのない財産となりました。
その中で、ひときわ強く心に残ったのがこの『マリア』という作品です。
日本の片隅で、日々を懸命に生きる若いふたり——マリアとケンの物語。
貧困、孤独、望まぬ妊娠、家族という繋がり、そして生まれてきたことの意味、といった様々な感情が渦巻く中、それでも誰かを想い、未来を模索するふたりの姿を描いています。
ソーシャルワーカーとして社会の課題と向き合ってきた寺田ともかさん(脚本)だからこそ描ける、優しく、温かく、そして力強い世界観と人間模様。そのストーリーが形になっていく過程を見届けられたことは、プロデューサーを目指すものとして本当に幸せな経験でした。
これからこの企画を映画という形にし、多くの方に届けていくことが、私の役割だと思っています。『マリア』が、届くべき人の心に届き、声なき若者たちの想いが、ほんの少しでも多くの人々へ響くきっかけとなることを願っています。