『ルックバック』今年屈指の満足度!鮮烈ヒットの気になる理由と背景に迫る

上映館数、わずか119館で公開が開始された劇場アニメ『ルックバック』が映画ランキングにて興収1位のスタートを切った。今回はその異例のヒットの理由と背景に迫っていきたい。

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『ルックバック』メインビジュアル
© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会 『ルックバック』メインビジュアル

昨年同時期に比べ、若干落ち着いた盛り上がりとなっている国内映画市場。そんな中、彗星のごとく現れた新作『ルックバック』の大ヒットが話題となっている。

『ルックバック』は『チェンソーマン』で知られる藤本タツキ原作の読み切り漫画を映画化した作品で、原作は2021年7月に「少年ジャンプ+」で掲載されるや否や、初日だけで閲覧数250万回という怪物級のヒットを記録した作品。本作はオープニング3日間で興行収入2億2,700万円を記録し、並み居る新作を抑え映画ランキングにて興収1位スタートとなった。


そして、本作の特筆すべきはその上映館数。わずか119館という小規模公開となっており、その数は先日わずか132館の公開で鮮烈な首位デビューが話題となった『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』よりも少ない。さらに言えば、『ルックバック』の座席数シェア率は全体のわずか3.8%で、これも『ぼっち・ざ・ろっく』の6.9%を大きく下回る規模だ。

そもそも『ぼっち・ざ・ろっく』が上映館150館規模の作品として『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』以来、約4年ぶりとなる1位デビューを記録した異例のヒット作なので、『ルックバック』級のヒットは中々目にかかれるものではない。今回はその異例ヒットの理由と背景に迫っていきたい。

※期間限定全体公開中。7月13日(土)から会員限定コンテンツとなります。会員登録は右上の黒いバーから。

コアファンの垣根を越える絶賛の嵐

本作の特筆すべき点は交通広告やテレビ露出などの宣伝がほとんど打たれていなかったにも関わらず、初動から優秀な数字を記録できたということ。この理由は様々考えられるが、まず平日の初日から特大スタートを切れたのは入場者特典の存在が大きいだろう。藤本タツキの原作ネームを全ページ収録した<Original Storyboard>は原作コミックと比べてもほぼ同じ大きさと厚さで、ファンとしては喉から手が出るほど欲しくなるような豪華特典だ。

元々原作コミックも読み切り作品でありながら『このマンガがすごい!2022』オトコ編1位に選出されるなど評価が高く、『チェンソーマン』でも人気な原作者のファンを中心に厚い支持を受けている作品だ。そのため、初日の客入りには大きく頷ける点がある。しかし、このようなファンを中心に動員する作品は初日から週末にかけて動員数が鈍化するパターンが多い。ただ、本作の土日成績は金曜の成績を上回る数字となっていたのだ。

その理由と言えるのが、満足度の高さだろう。映画レビューサイトFilmarksでは初日満足度ランキングが星4.45でトップスタートを切っており、この数字はドキュメンタリー映画を除けば、今年全体で見てもトップとなる数字となっている。(次点は『劇場版ハイキュー‼ゴミ捨て場の決戦』の星4.40)

加えて、初日に足を運んだ厚いファン層からSNSでも絶賛の声が飛び交い、口コミの波及も極めて速く即効性の強いものになったのではと推測できる。また、3年前とは言えど原作公開時にXでトレンド1位を記録するなど、SNSで話題となったからこその高い知名度が鑑賞ハードルを下げることに大きく繋がっていたのかもしれない。客層は20代から30代の男女が中心と偏りなく若者世代を動員していることから、少なくともファンの広がりだけで生まれたヒットとは考えにくい。平日に鑑賞した筆者のいち個人の感想ではあるが、コアファン層だけでなくライト層にも本作が届いている雰囲気を感じた。

小規模公開と鑑賞料金1,700円のカラクリ

本作は早くも大ヒットの影響を受け、2週目からは各劇場での上映回数増加と上映規模の拡大が始まっている。ただ、ここまでのポテンシャルを秘めているにも関わらず上映館数が限られており、鑑賞料金も1,700円という絶妙な価格設定になっていることに疑問を持つ人は多いだろう。

本作の配給を務めるエイベックス・ピクチャーズはアニメから実写まで幅広いコンテンツを手掛ける会社だが、近年の映画配給においては『BTS: Yet To Come in Cinemas』などのアーティストライブ作品を多く手掛けており、メジャーな邦画タイトルを配給するイメージは薄い会社だ。加えて、本作の製作委員会にはAmazon MGMスタジオが名を連ねており、109シネマズではODSとの表記が確認されている。ODSとは「非映画作品」のことで、近年では『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』や仮面ライダーのVシネマ作品などがこれに当たる。

つまり、本作はおそらく元々劇場公開を目的に制作されておらず、額縁上映やエンドロールのクレジットに「配信」チームの存在が確認できたことからも、製作委員会に含まれるAmazonの配信サービス、Amazonプライム・ビデオにて配信される可能性が高いのではないだろうか。実際、製作幹事にAmazonが名を連ねていた『沈黙の艦隊』は劇場公開後に続編となるオリジナルドラマがプライム・ビデオにて配信された事例がある。

『ルックバック』の鑑賞料金が一律1,700円となっているのもODS作品として独自の特別料金の設定がされているためだ。この辺りの裏側については後々明らかになりそうだが、配信と映画館が共存する今の時代だからこその新しいビジネススタイルとなっている。

特典の豪華さや値段設定からは短期集中で確実なファン集客を狙っているようにも見えたが、その動きに反して口コミで話題となるロングランヒットへの歩みを見せている本作。映画業界でなかなか見られない条件下のヒットは今後どんな動きを見せるのか、これからの売れ行きにも大きく注目が集まりそうだ。

《タロイモ》

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中学生時代『スター・ウォーズ』に惹かれ、映画ファンに。Twitterでは興行収入に関するツイートを毎日更新中。

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