4月1日（月）、電子出版プラットフォームMediumで公開されたAI（人工知能）の脅威を警告する書簡に、音楽業界を代表するビリー・アイリッシュやケイティ・ペリーといった人気シンガーはじめ、約200人の著名アーティストが署名した。
Deadlineによると、公開書簡に署名したアーティストには、ニッキー・ミナージュ、フランク・シナトラとボブ・マーリーの遺産団体、サム・スミス、ジョン・ボン・ジョヴィ、カミラ・カベロ、ジョナス・ブラザーズほか、錚々たるアーティストが名を連ねている。
AIの出現により、開発者はボーカル・サンプルを使用し、その曲の存在を知らない、もしくは曲の作成に許可を与えていない、人間のアーティストの声やサウンドに類似した曲を制作できるようになった。
この書簡では、AI開発者やテクノロジー企業、デジタル音楽サービスに向け、人間のアーティストの権利を侵害し、音楽の価値を下げるために人工知能（AI）を使用することをやめるよう求めている。
書簡には、「間違えてはならないのは、責任を持って使用すればAIは人間の創造性を向上させ、世界中の音楽ファンのために新しくエキサイティングな体験を生み出して発展させる、大きな可能性を秘めているということです。残念ながら一部のプラットフォームや開発者は、AIを利用して創造性を妨害し、アーティストやソングライター、ミュージシャン、権利の所有者に害を及ぼしています」と綴られている。
The Hollywood Reporterによると、アーティストの権利団体Artist Rights Allianceでエグゼクティブ・ディレクターを務めるジェン・ジェイコブセンは、声明にて音楽アーティストが苦境に立たされていると主張。「すでに現役ミュージシャンは、ストリーミングの世界で生計を立てることに苦労しているというのに、今度はAIが生成するノイズの洪水と競わなければならないという、さらなる苦難に直面しています。人間のアーティストに取って代わる生成AIの非倫理的な使用は、アーティストにとってもファンにとっても、音楽エコシステム全体の価値を下げてしまうでしょう」と訴えた。
すでに、音楽業界では生成AIをめぐる訴訟が起きている。2023年10月には、ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループとコンコード・ミュージック・グループ、アブコ・レコードという大手音楽出版社が、Anthropic社を訴えた。Anthropicは、インターネットから情報やテキストを収集し、そのインターネット・ソーシングに基づいたアウトプットを生成するようモデルをトレーニングすることで、AIモデルを構築する企業だ。
約200人のアーティストが署名した書簡には、「我々は、プロのアーティストの声や肖像を盗んでクリエイターの権利を侵害し、音楽エコシステムを破壊するAIの略奪的な使用から守らなければなりません。すべてのデジタル音楽プラットフォームと音楽ベースのサービスに対し、ソングライターやアーティストの人間的な芸術性を損なったり、置き換えたりするようなAI音楽生成技術やコンテンツ、ツールを開発・展開しないこと、また我々の作品に対する公正な報酬を否定しないことを誓約するよう求めます」とも記されている。
この書簡は、米国の政治家や規制当局がアーティストに補償をしつつ、音楽分野でAIの適切な使用を確立する道を検討している最中で発表された。
生成AIの使用については、音楽業界だけでなく出版業界でも大きな問題となっており、2023年9月には著名作家グループがMeta Platforms（元Facebook）を相手取り、米サンフランシスコ連邦裁判所で集団訴訟を起こした。
今後も芸術を取り巻く生成AIの使用について、さらに問題が浮上するのではないかと見られている。
