第96回アカデミー賞で、作品・脚本賞をはじめとする5部門でノミネートされた映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』に盗作疑惑が浮上し、英脚本家のサイモン・スティーヴンソン氏が、過去に執筆した自身の脚本との類似性を訴えている。スティーヴンソン氏は、『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』やアニメーション映画『あの夏のルカ』などで知られる脚本家だ。
IndieWireによると、『ホールドオーバーズ』のアレクサンダー・ペイン監督は、2013年にスティーヴンソン氏が脚本を手がけた『Frisco（原題）』の製作を検討していたという。スティーヴンソン氏が『ホールドオーバーズ』との類似性を主張する『Frisco』は、製作前の脚本を評価し、映画製作者とマッチングするプロジェクト「Black List」の対象作品で、スティーヴンソン氏によればペイン監督がその脚本を読んだ可能性が高いとのこと。
『ホールドオーバーズ』の脚本には、ドラマ「コードネーム：ウイスキー・キャバリエ ふたりは最強スパイ」などで執筆を担当したデヴィッド・ヘミングソン氏のみがクレジットされているが、2023年11月に開催されたテッサロニキ映画祭などの場で、ペイン監督は自身も脚本に参加したことを認めていた。
『ホールドオーバーズ』と『Frisco』の類似性は？
気になる両作の類似性だが、2013年当時に「Black List」の3位にランクインしていたという『Frisco』の概要は、「離婚に直面した40代の小児アレルギー専門医が、サンフランシスコで開催される学会に出席するための週末旅行で、15歳の末期患者から生きる教訓を学ぶ」と紹介されている。
対する『ホールドオーバーズ』は1970年代を舞台に、全寮制の寄宿学校で教師を務める主人公が、クリスマス休暇中に寄宿舎に残ることになった15歳の学生アンガスと料理長メアリーと一緒に、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすというストーリー。
Varietyによると、1月12日にスティーヴンソン氏は全米脚本家組合（WGA）に対し、『ホールドオーバーズ』は『Frisco』の盗作であると申し立て、「ストーリーやキャラクター、構成にシーン、台詞など全て」が類似しているとし、「事実上、最も重要なシーンの多くは変更されておらず、ページ上のレイアウトも目に見えて同じ」だと主張。WGAは盗作疑惑を調査する立場にないとしつつも、この件についてある程度の議論はしたと認めている。
過去の電子メールがスティーヴンソン氏の主張の裏付けに？
スティーヴンソン氏がWGAに送った書簡に目を通したVarietyによれば、同氏の主張は、複数のハリウッドのエージェンシーやプロデューサーの間で交わされた電子メールで裏付けられるという。2013年8月にユナイテッド・タレント・エージェンシーのジェフ・モーリー氏はメールで、「ペインは『Frisco』を気に入ってはいるが、製作や監督することに興味はないと言っていた」との旨を綴り、ペイン氏がスティーヴンソン氏の脚本を読んだことが示唆されている。
また、その6年後となる2019年には、Netflixへ持ち込まれた『Frisco』の脚本がペイン氏に渡り、キャスティング・エージェンシー「Brightstar」のスタッフがスティーヴンソン氏宛に具体的なキャスティング案に関するメールを送っていたのこと。
3月5日にWGAの理事会はスティーヴンソン氏に連絡を取り、盗作疑惑については内々に議論されていると述べたが、現時点で同件がどのように対処されているのかは不明だ。さらに、これらの記事が掲載されたあと、SNS上では2作の脚本を読み比べると類似点が少ないという指摘もあり今後の動向に注目が集まっている。
また『ホールドオーバーズ』は、米現地時間3月10日に開催された第96回アカデミー賞のノミネートから外されることはなく、メアリー役を演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞に輝いた。
IndieWireはペイン氏とスティーヴンソン氏に、VarietyはWGAにコメントを求めているが、現時点で返答はないと報じられている。
