これまでアジア映画業界といえば、日本や中国、韓国を中心に栄えてきたが、ここ近年でベトナム映画産業が急成長を遂げていることが分かった。
Deadlineによると、ベトナムの正月「テト」休暇に当たる2月第2週の週末における同国の映画興行収入ランキングでは、人気コメディアンのチャン・タインが監督を務めた『Mai(原題)』をはじめ、トップ10に計3本のベトナム映画が食い込んだとのこと。最近、ベトナム映画市場では大きな変化が起きている。国営だった同国の映画産業は10~15年前から民営化が進み、パンデミック前の興行収入は毎年10%の伸びを見せた。長い歴史を持ち、より発展したタイの映画産業を追い抜いたという。
2023年、ベトナムにおける映画館1,100館の興行収入は1億5,000万ドル(約225億円)に達し、2010年に映画館数が90館で、年間興収が1,500万ドルに満たなかった市場としては上々の数字だと言えるだろう。
ベトナム映画産業が急成長を遂げている要因
この急激な成長における大きな要因の一つが、韓国の興行会社CJ CGVとロッテシネマ、ベトナムのスタジオGalaxy CinemaとBHD Star Cineplexによるマルチプレックスシネマの建設計画だ。最近ベトナムでは、学生や中間所得層の映画ファンを対象に、より低料金のチケットを提供するBeta CinemasやCinestarなど新しい映画館チェーンが出現しているという。
しかも市場を牽引しているのは、新しいジャンルを開拓し、より幅広い分野の映画制作を目指す地元のプロダクション会社だという点も注目に値する。民間企業が映画製作を許可されたのが2000年代半ばだったことを考えると、その成長ぶりは驚異的だ。VIETJOによると、先述の『Mai』を手がけたチャン・タイン氏の制作会社「チャン・タイン・タウン (Tran Thanh Town)」は映画のヒットにより高い利益率を達成しているという。また、韓国エンタメ企業もベトナム映画への資金提供と製作に積極的で、現在ベトナムでは、ハリウッド映画よりも地元製作の映画を好む観客が増えているとのこと。ベトナムの2023年映画興行収入トップ10に入った米国映画は、『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』と『マイ・エレメンタル』のみで、ベトナム映画は『マダム・ヌーの家』をはじめとする6本がランクインした。こういったベトナム映画の人気は、パンデミックと2023年に起こったハリウッドのダブルストライキの影響により、米国の新作映画の供給が鈍化していることに加え、ベトナムの若者世代が、アジアのポップカルチャーやトレンドをフィーチャーした、より自分たちの文化に近いコンテンツを求める傾向に起因している。
まだ黎明期のベトナム映画産業
ベトナム映画産業は急激に成長を遂げているが、プロデューサーや映画制作者たちは、今も業界は発展途上で、投資家たちはパンデミックの影響で投資に慎重になっており、タレントプールは観客の需要を満たすほど大きくないと問題を指摘。制作・配給会社Silver MoonlightとSkyline Mediaの創設者であるハン・トリン氏は、「新しいプロジェクトを始める際、キャストやスタッフにとって、映画を新鮮かつ他とは違う作品にするための選択肢が少ない」とし、「今はトレーニングが重要な課題で、その問題がクリアされれば、より多くの人材から選ぶことが可能になり、市場が大きく成長できるでしょう」と語った。その他にもベトナム政府が設けている映画の検閲や、税額控除や制作奨励金の欠如なども問題として挙げられている。