『プリンセス・ダイアナ』アーカイブプロデューサーが語る、素材集めの苦労

数千時間のダイアナにまつわる映像が109分に凝縮された、ダイアナ元妃の人生を辿るドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』が現在公開中だ。これらの映像はどのように集められたのか?

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『プリンセス・ダイアナ』アーカイブプロデューサーが語る、素材集めの苦労
(C)Kent Gavin.jpg 『プリンセス・ダイアナ』アーカイブプロデューサーが語る、素材集めの苦労
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数千時間のダイアナにまつわる映像が109分に凝縮された、ダイアナ元妃の人生を辿るドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』が現在公開中だ。これらの映像はどのように集められたのか?

世界中で大フィーバーを巻き起こし日本でも高い人気を誇ったダイアナ元皇太子妃のドキュメンタリー映画が没後25年となる今年秋、世界で初めて劇場公開された。
歴史に残る結婚式。子供が生まれた日。離婚にまつわるスキャンダル。AIDSの子供を抱きあげる姿。そして彼女が亡くなった日――。世界中で25億人が見たという、ダイアナ妃の葬儀。カメラは全てを映し出していた。むきだしの映像が、ダイアナ元皇太子妃の人生を物語る。

ダイアナ妃の人生、そして悲劇的な死については過去にも何度も語られてきたが、アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞にノミネートを果たした経験を持つ、気鋭のドキュメンタリー作家エド・パーキンズ監督(Netflix「本当の僕を教えて」)が手掛ける本作は、1981年にチャールズ皇太子と婚約する数週間前から、世界中が悲しみに暮れた突然の死までの16年間が、当時のニュース番組の映像やホームビデオなど、あらゆるアーカイブ映像を繋ぎ合わせて語られ、これまで以上にダイアナを新鮮で身近に感じられるよう構築されている。

知っていれば映画をもっと楽しめる!【アーカイブプロデューサー】サム・ドワイヤーが語る制作の裏側


本作は当時のアーカイブ映像だけを使ってダイアナ妃の物語を語り、その時代を体験することができる長編ドキュメンタリー映画。従来のドキュメンタリー作品に見られるような、インタビュー映像や回顧的分析などは全く含まれていない。109分の本編の中で、ダイアナが映る映像はもちろん、一般人がホームビデオを回しダイアナの話をしたり、ドライブをしていたら偶然ホテルからダイアナが出てくるのを待ち構える報道陣の姿に遭遇したり、ダイアナが映らない映像も多様され、ダイアナへ向けられていたあらゆる視点が描かれる。そんな本作の陰の立役者となったのは、アーカイブプロデューサーというアーカイブ映像を専門に扱う専門職のスタッフである。

本作のメインアーカイブプロデューサーとして数千時間に及ぶ膨大な素材を用意したサム・ドワイヤーは、当初から映画の制作は相当の困難を極めることを予想していたといい、「そもそもダイアナについて多くの作品が既に存在している中、それらと差別化できるような新しいものが作れると思っていませんでした。ダイアナが一般的に知られるようになったのは80年代から90年代の頃ですが、当時は3チャンネルしかなかったイギリスの地上波チャンネルが4つになった頃で、それらのチャンネルに現存しているアーカイブ映像は、すでに嫌というほど掘り起こされていたため、イギリスにある彼女の映像には限界がありました。なので私たちはとにかくリサーチの網を世界中に大きく張ることにしました」と大規模な素材集めを振り返る。

「世界中から素材を探さなければならなかったのに、プロジェクトをさらに難題にしたのは、新型コロナのパンデミックでした。皆がリモートワークとなりましたが、アーカイブ映像を扱う仕事をする身から言うと、自宅からアーカイブ映像にアクセスすることは困難なのです。特に本作のアーカイブ映像は80~90年代のテープですから、郊外の外れの工業団地にあるような倉庫内に物理的に保管されているものばかりだったので、移動を制限されたり、オフィスに入れなかったり、データベースへのアクセスが制限されることは、素材集めにおいてとても大きな問題となりました。最終的には、希望した映像はすべて手に入れることができましたが、そのプロセスにはかなりの時間を要しました。チームも、イギリスに6~7カ所、加えてスウェーデンに1カ所といった具合に各地に散らばっていました」とパンデミック最中の苦労を語る。そうして集めた映像のすべては、その後わずか3人のアーカイブチームで、テープを見て使えそうな映像があれば一つ一つデジタル化していくという地道なプロセスを踏んで制作を進めていった。

大量のアーカイブの中からどのような基準で映像を選んだかについて、「ダイアナがあれほど人気を博し、人々に感動を与えた理由のひとつは、彼女がそれぞれ個人に影響を与えたからです。そして私たちは、彼女が人々に影響を与えたことを目の当たりにできる映像素材を探さなければならなかったのです。ホームビデオ映像や、ダイアナが一般人と交流している様子が聞き取れるアーカイブ映像を片っ端から探しました」と語る。さらに、「もうひとつのクリエイティブ面での難関となったのは、映画の中の音声。エド(監督)は、映像のみならず音声もその当時のものを使うことを考えていました。本編の映像に乗っているナレーションは、その当時のテレビ番組やニュースの一部から実際に流れていた音声です。これがレイヤー効果となり、その時代に瞬時に入り込んで追体験することができるのです。どの映像と音声を組み合わせていくかという点も難しい作業のひとつでした」と明かす。

ダイアナの映像を見ていくうちにチームはある事実に気付く。「彼女は当時、おそらく世界で最も写真に撮られた人物でありながら、実際に彼女の声を聞くことができた人はごくわずかだったのです。結婚前のインタビューは何度かあったものの、特に80年代前半は、彼女がカメラに向かって話をする回数は非常に限られていました。もしかすると自分の意見を述べるべきではない、あるいは声を届けたくないと思ったのかもしれません。しかし、それが演技だったのか無意識的なものだったのか分かりませんが、彼女のボディランゲージ(身振り・手振り)は、彼女の考えを隠すことができませんでした。それを発見した私たちは、すぐに彼女のボディランゲージを読み取ることを学ぶようになりました。彼女の本心や、伝えたい事は、彼女の目や体の動きに現れていることが多いのです」と明かし、ダイアナの本心を捉えた映像を切り取り続けたという。

制作者の地道な努力の結晶ともいえる本作。これまで見たことのない映像の数々に、新しい視点でダイアナを感じ取ることができる一作となっている。ぜひサムが説明するように、当時の様子を追体験しながら、ダイアナのボディランゲージを読み取り、彼女の本心を想像してみてほしい。


監督:エド・パーキンズ(Netflix『本当の僕を教えて』)/原題:『ThePrincess』/配給:STARCHANNELMOVIES/diana-movie.com
後援:ブリティッシュ・カウンシル読売新聞社

《Branc編集部》