ホームセンターを「遊び倒す」──カインズが語るオウンドメディア運営の哲学と実践

2025年7月4日(金)、コンテンツ東京2025内のセミナーで株式会社カインズのオウンドメディア「となりのカインズさん」副編集長を務める奥洋介氏が登壇しました。セミナーで明かされた、同メディアの戦略や事例紹介のようすをレポートします。

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ホームセンターを「遊び倒す」──カインズが語るオウンドメディア運営の哲学と実践
ホームセンターを「遊び倒す」──カインズが語るオウンドメディア運営の哲学と実践

2025年7月4日(金)、コンテンツ東京2025内のセミナーで株式会社カインズのオウンドメディア「となりのカインズさん」の立ち上げから現在に至るまでの運営方針、コンテンツ制作の裏側、そしてメディアとしての思想が語られました。登壇したのは、副編集長を務める奥洋介氏です。セミナーで明かされた、同メディアの戦略や事例紹介のようすをレポートします。

「となりのカインズさん」誕生の背景とコンセプト

「となりのカインズさん」は、2020年6月にスタートしたオウンドメディアです。構想が始まったのは2019年末で、約半年間の準備期間を経て立ち上げに至りました。当初の編集体制は、編集者2名とデザイナー1名の計3名という非常にコンパクトなものでしたが、最小限のリソースで最大限の成果を目指す体制でスタートしました。

メディアのコンセプトは「ホームセンターを遊び倒す」です。立ち上げから1年で月間400万PVを達成し、6年目の現在では700万~800万PVという規模にまで成長しています。

メディア運営の体制と記事の種類

「となりのカインズさん」では、基本的に毎日1本以上の記事を公開しています。昨年は年間554本を制作し、平均すると1日1.5本のペースで記事を発信してきました。企業のオウンドメディアとしては、かなり高い更新頻度ではないかと奥氏は語ります。

記事は大きく4つのカテゴリーに分類されています。

  • メーカー連携記事:協力企業の商品や開発背景を紹介するもので、製品の魅力を深掘りします。

  • クリエイター記事:外部のクリエイターによる企画で、独自の視点から商品やサービスを取り上げます。

  • ユーザー記事:主婦や一般ユーザーが実際に商品を使い、その使用感や工夫を紹介する実用的な内容です。

  • 社内スタッフ記事:社員が自らの体験や専門知識をもとに執筆するもので、社内のリアルな声を届けています。

記事の種別には、編集記事と広告記事の2種類がありますが、現状の割合としては編集記事がほとんどのようです。

コンセプトに沿った編集方針と実例

メディア運営において最も重要なのは、コンセプトに忠実であることと奥氏は述べました。コンセプトが曖昧だと、記事制作の方向性がぶれてしまい、読者に伝わるメッセージも不明瞭になります。

「ホームセンターを遊び倒す」というコンセプトに基づき、例えば「蛇口からジュースが出る装置を自宅にDIYしてみた」といった夢のある企画や、「泡の入浴剤で浴室をアート空間に変える」といった実験的な取り組み、「ホットサンドメーカーで肉を焼いてみた」というような視覚的にインパクトのあるコンテンツなどを発信しているようです。これらは、商品を単なる消費財としてではなく、生活を彩るツールとして再定義する試みとも言えるのではないでしょうか。

また、オウンドメディアの目的は一つではありません。例えば、掃除グッズ紹介が大ヒットし、売上好調の要因になったり、採用活動においても記事を通じて企業文化を伝えることで、応募者の質や数に好影響を与えたりと、記事ごとに異なる目的を持たせることで、効果を最大化することができます。

「B面」を活かした記事制作

社員の意外な一面、いわゆる「B面(普段、表に出していない裏の顔)」を活かすことも、メディアの個性を形成する重要な要素だと奥氏は語ります。例えば、スリランカマニアの社員による記事や、昆虫博士の社員を取材した専門的な解説など、個人の特技や趣味をコンテンツに反映させることで、記事に深みと説得力が増すと考えられます。

また、振り子の振れ幅に例えた考え方も同メディアには存在します。一般的にはクオリティの振れ幅が狭い方がものづくりとしては安定するかもしれませんが、「となりのカインズさん」はプロもアマも自由に記事制作に関われるスタイル。この幅の広さが「おもしろさ」に直結すると奥氏は述べました。

このような、関係者全員の強みを最大化することを意識した取り組みは、読者との信頼関係を築くうえでも有効であり、社内の多様性を外部に伝える手段にもなっていると言及できます。

「苦手なことを克服するよりも、得意なことを伸ばす方が成果を出しやすく、何より本人のモチベーションにもつながります。ライター、カメラマン、社員、タレントなど、それぞれの得意分野を尊重し、役割を明確にすることで、チーム全体のパフォーマンスを高める運営方針。これが、メディアの独自性と継続的な成長を支えています」と奥氏は語り、セミナーを締めくくりました。


「となりのカインズさん」は、ホームセンターという日常的な空間に、遊び心と実用性を融合させることで、新しい価値を創出しています。セミナーで奥氏が語る事例から、メディア運営に対する深い洞察と情熱が感じられました。

《杉田大樹@MediaInnovation》