『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』上映規模縮小も動員は右肩上がり!“ヒットの謎”を紐解く

口コミ効果で満席が続出している『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。その“ヒットの謎”を分析する。

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©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
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映画の売上を期待する上で重要な要素のひとつとなる「口コミ」。

今年に入って大人の映画鑑賞料金は2,000円台に突入し、それに見合う体験を得られるかどうかを判断する上でも、その重要性は増している。ただし、口コミが良いからと言って必ずしも大ヒットに繋がるとは限らない。今までも“知る人ぞ知る良作”は数多く生まれてきたのだ。そんな中、直近珍しく口コミで大きなムーブメントを起こしつつある作品が『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』である。

水木しげる生誕100周年を記念したこの作品は、鬼太郎の父親の過去と鬼太郎の誕生にフォーカスしたいわゆる前日譚。注目すべき興行成績だが、4週連続で週末成績が右肩上がりを続けるという異例のヒットを記録し、累計興収11.5億円を突破した。これは近年稀に見る伸び具合で、全国規模で公開され、ニュースで話題となった作品としては『ボヘミアン・ラプソディ』以来の連続右肩上がり。このムーブメントに潜む謎とは一体何なのだろうか。


口コミが良くてもヒットするとは限らない

冒頭で口コミはヒットに直結しないと話したが、ここには上映システムとのジレンマが存在する。というのも、全国規模で公開される作品は公開初週の上映規模がピークで、そこからは縮小していくというのが上映スタイルの基本だからだ。口コミで動員数が増加傾向にあっても、劇場側は新作との上映契約もあるため、上映回数を大きく増やすといった小回りが効かないパターンが多い。特にじわじわと口コミが広がるタイプの作品は、上映規模の縮小に間に合わず、公開終了を迎え“知る人ぞ知る名作”になってしまう。

その例として記憶に新しいのは『アイの歌声を聴かせて』だろう。この作品はSNSで大きなムーブメントを見せるも、公開初週に動員が見込めなかったことから、2週目に箱数が大幅減。3週目以降は満席近い動員を記録したがそのまま上映終了を迎えてしまった。

実際『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も上映規模は縮小を続けており、そんな中でも動員数が右肩上がりとなっているこの状況はまさに異常。週末は満席の回も続出するほどの人気っぷりだ。果たしてなぜそこまでのムーブメントを起こすことができたのだろうか。

「鬼太郎」だからこそ起こせたヒット現象?

本作は公開初日からSNSで絶賛の声が相次いだ。Xでは作品の魅力を箇条書きした視聴者の投稿のいいね数が11万を超えるなど、映画の感想でも珍しい跳ね方をしている。

さらに、Googleトレンドで検索数の推移を確認すると、話題性は常にうなぎ上りとなっており、口コミの輪がだんだんと大きくなっていることが分かる。

Googleトレンドから筆者作成

ここで、作品の内容はさることながら、口コミが伸びやすくなった要因について考えてみたい。

まず1つ目は、知名度の高さゆえのハードルの低さと内容のギャップだ。まず「ゲゲゲの鬼太郎」はテレビアニメが現在6期まで制作されており、世代を超えて高い知名度を獲得している。そのため、知名度がほぼゼロからスタートするようなオリジナル作品に比べて、本作はレビューも目につき易い。さらに、今作の大人向けな作風は休日の朝に放送していた子ども向けアニメというイメージに対してギャップがあり、そこも注意を引くポイントとなっている。

具体例を出せば、2019年公開『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は“大人も号泣”という触れ込みの口コミが急激に拡散され大きな話題性を獲得。2週目は初週比150%超えと異例の伸びを記録した。子ども向けというイメージと大人向けの作風というギャップは観客の心を揺さぶる大きなポイントになっていると推測できる。ハードルの低さと作風とイメージのギャップは観客の興味関心を高め、ライトな層へのリーチを実現する要因となっている。

2つ目は、根強いファン層と推し活ファンの獲得だ。まず、長い歴史を持つ原作マンガを始め、これまでにも様々なコンテンツが展開されてきた「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズのファンからの厚い支持はヒットにも直結していると考えられる。特に本作はミステリー調の作風であることから、何度も鑑賞することで得られる新たな気づきも多い。

そして、何といっても注目すべきは推し活という側面。そのフォーカスが当たっているのは本作の主役である、鬼太郎の父と水木。この2人の関係は本作が評価されているポイントでもあり、それぞれが愛されるキャラクター像であることから、SNSではファンアートも多く投稿されている。近年では「うたの☆プリンスさまっ♪」や「アイドリッシュセブン」などのようにライト層でなく推し活をメインターゲットとした作品も20億円を超える大ヒットを記録。コアなリピーター層の動員力がいかに絶大であるかはすでに証明されてきた。本作もその例に漏れず、入場者プレゼント第2弾が配布された4週目は各地で満席が続出する事態に。

ファンの間では、舞台が哭倉村であることにちなみ、本作を鑑賞することを「入村」と呼び、すでに20回以上足を運ぶ人もいるという。ライト層にもコア層にも浸透する口コミ効果は、約60年の歴史を持つ「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズだからこそ、ムーブメントを起こすことができたのかもしれない。

《タロイモ》

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中学生時代『スター・ウォーズ』に惹かれ、映画ファンに。Twitterでは興行収入に関するツイートを毎日更新中。

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