イスラエル・ガザ戦争に対するドキュメンタリー映画祭の声明が物議、数人の監督が出品を取りやめ

世界最大級のドキュメンタリー映画祭「アムステルダム・ドキュメンタリー国際映画祭」にて、パレスチナ映画協会を含む数人の監督がイスラエル・ガザ戦争に対する運営側の声明に抗議し、作品を取り下げる事態に。

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IDFA 公式サイトより
IDFA 公式サイトより

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11月8日(水)~19日(日)にかけて、オランダのアムステルダムにて開催中の世界最大となるドキュメンタリー映画祭「アムステルダム・ドキュメンタリー国際映画祭(以下、IDFA)」の初日、檀上に乱入した抗議者がパレスチナ支援を訴えた騒動を受け、パレスチナ映画協会がIDFAから作品の出品の取り下げを発表する事態となった。

Deadlineによると、事の発端となったのは、映画祭の初日となる8日、IDFAで芸術監督を務めるオルワ・ニラビア氏が壇上でスピーチを行なっていた際、親パレスチナ派のデモ参加者3名が乱入し、「From the River to the Sea, Palestine Will Be Free(川から海まで、パレスチナは自由になる)」とのスローガンが書かれた横断幕を掲げたことよる。このスローガンには、「もともとヨルダン川から地中海までの地域で暮らしていたパレスチナ人が自由になり、かつて暮らしていた場所へ戻れますように」との願いが込められている。

横断幕を掲げながら、「今こそ停戦だ!」と叫ぶ抗議者らに対してニラビア氏が拍手を送り、抗議者がステージから去ると会場からも拍手が沸き起こったという。ニラビア氏と来場者が、親パレスチナ派を支持するような態度を見せたことでIDFAに非難が殺到。その批判を受け、11月10日(金)にニラビア氏が声明にて、「その時点で、横断幕に注意を払わなかったことをお詫びします」と謝罪を表明。「私が拍手をしたのは言論の自由を歓迎するためであって、スローガンを擁護するためではありません。横断幕に書かれたスローガンについては、オープニングの映画上映が始まり、舞台裏に行った時にチームから聞かされました」と釈明している。

収拾を試みた発言が逆効果に

ニラビア氏に続いてIDFAも声明で謝罪し、事態の収拾に努めようとした。ところが、問題となったスローガンに対する映画祭側の発言が状況を悪化させる結果に。IDFAは以下のようなコメントを発した。

「このスローガンが人々を傷つけるものであったことを理解しており、このような事態を招いたことを心から謝罪致します。このスローガンの使い方や解釈の仕方は様々で、異なる立場の人々が対立する形でこのスローガンを使っています。我々は、このスローガンがいかなる形であれ、またいかなる者によっても、これ以上使用されるべきではないと信じています。IDFAは、このスローガンを支持も賛成もしていません」

この発言を「親イスラエル派」と捉えたパレスチナ映画協会が、IDFAに対して怒りを露わにし、IDFAへの出品を取り下げると発表。同協会は、「その中には、パレスチナ人による経験の“本質”を捉えた3つの痛烈なドキュメンタリー・プロジェクトの上映も含まれます。大勢が出席していることは把握していますが、我々はプログラマーや映画制作者、観客として、組織的な暴力と検閲に関与する映画祭との提携を拒否します」と主張した。

The Hollywood Reporterの取材に応じたニラビア氏によると、パレスチナ映画協会のほか、IDFAの発言に抗議した10人の監督が自身の作品を映画祭のラインナップから外したことを認めている。19日まで開催されるIDFAは現時点で通常通りに運営されており、同氏は、スケジュールから外された10本の映画は上映予定の約280作品のうち、ほんの一部にすぎないとも付け加えた。

日本からは『GAMA』を出品していた小田香監督も作品を取り下げた。

IDFAは思わぬ展開により、親イスラエル派とパレスチナ映画協会の双方から抗議を受ける事態となったが、ニラビア氏は前向きな姿勢を崩していないそうだ。「我々の映画祭は、あらゆる意見のために開かれたプラットフォームでありたいと願っていますが、世界の分極化が行き渡っています。我々は誰もが安全だと感じ、映画制作者たちがオープンかつ自由に意見を述べることができると感じられるよう努力してきましたし、これからも尽力し続けます」とコメント。

今年の映画祭は世界を揺るがす論争と混乱を引き起こしたが、世界最大となるドキュメンタリー映画祭の目標は今後も変わらないと強調した。

《Hollywood》
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ロサンゼルスに11年在住していた海外エンタメ翻訳家/ライター。海外ドラマと洋画が大好き。趣味は海外旅行と料理、読書とカメラ。

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