街中にポスターが貼られ、一層盛り上がりを見せていたドイツの首都・ベルリン。2月26日(日)に閉幕した世界三大映画祭の一つ、第73回ベルリン国際映画祭を振り返る。
筆者は、2月16日(木)から2月20日(月)まで現地を訪問した。初めて本格的に訪れた海外の映画祭への所感と共に、海外メディアのニュースも取り入れ、今年のベルリン映画祭の全体像と受賞結果をまとめていく。
コロナ前の活気が戻った今年のベルリナーレ
映画祭中のベルリンは、シンボルである熊をモチーフにした車が走り、至る所にポスターが貼られていたりと大盛り上がり。今年は紫や赤、ピンクが基調のシンプルなイラストがテーマとなっていた。

ScreenDailyによると、今年のチケット売り上げ数は、コロナ禍前に開催された2020年の本映画祭で販売された330,681枚のチケットにも近づく勢いで、完全に映画祭がコロナ以前の状況に戻ったことが実感できる。2021年は、映画祭は通常の2月の枠で開催されず、サマースペシャルイベントが開催され、130作品のチケットが57,962枚販売されていた。
また、新しい会場であるVerti Music Hallが「観客から非常に好評」であること、業界人やプレスによる上映会参加も平均90%と「非常に高い」こともScreenDailyにて報告された。筆者は後述する2作品をVerti Music Hallで観たのだが、体感として映画館以上の音響で臨場感がある会場だった。
まず大きな話題をさらったのは、本映画祭でワールドプレミアとなったレベッカ・ミラー監督の『She Came To Me』。オープニングを飾った本作はピーター・ディンクレイジとアン・ハサウェイ、マリサ・トメイが出演しており、スランプに陥っているオペラ作曲家と精神科医の妻、そして船で放浪している女を中心に回る家族と愛の物語。筆者は17日の回の上映で鑑賞することができたのだが、実際の会場では上映中は多くのシーンで笑い声が響き渡り、上映後は大きな拍手に包まれていた。

また、本映画祭で初上映となったドキュメンタリー映画の『Boom! Boom! The World vs. Boris Becker』の初日の上映にも参加することができた。かつて17歳でウィンブルドンの王者に輝いた西ドイツ出身の、ボリス・ベッカーを追ったドキュメンタリー作品。最近逮捕され、世界でも大きなニュースになっていたベッカーの2019年と2022年の判決前のインタビューを比較し、当時のマネージャーやジョン・マッケンローなどライバルたちが歴史的瞬間を振り返ったりと、当時の映像も交えて進んでいく。上映前と上映後には、ベッカーとアレックス・ギブニー監督、プロデューサーを含む映画関係者が登壇した。本作はApple TV+で近日公開される予定。

映画作品の上映以外だと、『Talking about Film – What Does Casting Mean?』というキャスティングについての公開イベントも開かれた。ベルリン国際映画祭の「Perspektive Deutsches Kino」セクション責任者のイェンニ・ジルカとキャスティングエージェントのライザ・スターツキー、女優で声優のデラ・ダブラマンジが、俳優としてキャスティングされるための準備や、どのようにキャストを選んでいるのかなどをトーク。メイン会場近くの「Manifesto」というフードコートで行われ、若い学生のような人から映画好きな大人まで、会場は混み合い質問も多く飛び交った。

話題となったニュース
日本では『すずめの戸締まり』のコンペティション部門ノミネートが話題となっていたが、そのほかイラン政府への抗議などもニュースとして話題となった。Varietyによると審査員長のクリステン・スチュワートに加え、イランの映画監督やタレントたちが「女性、生命、自由」と唱え、投獄中のジャーナリストやイラン人ラッパーの解放を要求したのだ。イラン出身の女優ゴルシフテ・ファラハニは、初日のスピーチで「イランの刑務所は無実の人々でいっぱいです。イラン国民とともに歴史の正しい側に立ってほしい」とコメントした。

コンペティション部門ではドキュメンタリー『On The Adamant』が金熊賞
最終日の26日(日)に行われた授賞式では、パリのリハビリセンターについて描いたニコラ・フィリベール監督のドキュメンタリー『On The Adamant』が、金熊賞(最優秀作品賞)を受賞した。本作は『ぼくの好きな先生』以降、監督と21年の交流を持つ日本の配給会社ロングライドが共同製作として参加している。今回の審査会では特にドイツ映画が好評だったようで、銀熊賞(審査員グランプリ賞)をクリスティアン・ペツォールト監督の『Afire』、脚本賞をアンゲラ・シャーネレク監督の『Music』、最優秀助演俳優賞をオーストリア出身の女優でトランス活動家のテア・エーレが『Till The End Of The Night』で受賞した。🏆金熊賞:『On The Adamant』

🏆審査員グランプリ(銀熊賞):『Afire』

🏆脚本賞(銀熊賞):『Music』

🏆最優秀助演俳優賞(銀熊賞):『Till The End Of The Night』

そのほかもヨーロッパ作品が多く、審査員賞をポルトガルのジョアン・カニーヨ監督の『Bad Living』、監督賞をフランスのベテラン、フィリップ・ガレル監督の『The Plough』が受賞した。最優秀主演俳優賞は『20,000 Species of Bees』で8歳のルシア役を演じた新人のソフィア・オテーロに、特別個人貢献賞はジャコモ・アブルッツェ監督の『Disco Boy』で撮影を行ったエレーヌ・ルーヴァルトに贈られた。
🏆審査員賞(銀熊賞):『Bad Living』

🏆監督賞(銀熊賞):『The Plough』

🏆最優秀主演俳優賞(銀熊賞):『20,000 Species of Bees』

受賞結果:https://www.berlinale.de/media/en/download/service/berlinale-awards-2023.pdf
冒頭にも述べたように、筆者は今回が初の本格的な海外の映画祭となったのだが、2019年に一度映画祭開催期間中のベルリンを訪れたことがある。(当時映画祭ではない目的で訪れていたため、鑑賞はできなかったが)今年、パンデミックが落ち着いた後のベルリン国際映画祭を訪れ、4年前と変わりのない活気を感じることができた。
※当初公開した記事に加筆・修正をしたため、記事URLを新たに再公開いたしました。