映画・アニメに銀行融資は可能か?「日本型フィルム・ファイナンス」調査事業に挑む三菱UFJ銀行に聞く

経済産業省の調査研究事業に採択された三菱UFJ銀行が、作品の「価値評価」と「完成保証」の仕組みづくりに着手。製作委員会方式が主流の日本で、銀行融資によるフィルム・ファイナンスは成立するのか。担当者に聞いた。

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写真:ロイター/アフロ
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  • WIPO「IP Assets and Film Finance: A Primer on Standard Practices in the U.S.」、TroyGould「Motion Picture Completion Guarantee Structure」、Media Services「How To Bond a Film」などをもとに編集部作成。
  • 出典:経済産業省 令和8年2月商務・サービスグループ 文化創造産業課「コンテンツ産業成長投資支援事業」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/PDF/260220/260220-1.pdf 赤枠は編集部が追加
  • 韓国コンテンツ振興院(KOCCA)紹介資料、VIPO「コンテンツ支援政策調査(韓国)」(2024年)をもとに編集部作成。手続き概略。

日本の映画・アニメ産業で、銀行融資を活用した新たな資金調達の仕組みづくりが動き出した。

経済産業省の「令和7年度補正コンテンツ産業成長投資支援事業」の一環として実施される「資金調達環境整備に関する調査研究事業」に、株式会社三菱UFJ銀行が採択された。同事業は、実写映画やアニメ作品への融資を検討する際に必要となる「価値評価」と「完成保証」の手法を、日本の実情に即して検証し、日本映画の「フィルム・ファイナンス」の基盤整備を目指すものだ。

背景にあるのは、日本発コンテンツの海外展開を支える資金調達手段を多様化させる必要にせまられていることだ。政府はコンテンツ産業を成長分野に位置づけ、日本発コンテンツの海外売上を2024年時点の約6.0兆円から、2033年までに20兆円へ拡大する目標を掲げている。一方で、実写映画やアニメーションの制作現場では、海外市場を見据えた大規模作品の企画・制作に必要な資金をどう確保するかが課題となっている。

日本の映画産業では、長らく製作委員会方式が主要な資金調達手法として機能してきた。製作委員会方式には、複数社でリスクを分散し、参加企業それぞれの得意分野を活かして事業を展開できるというメリットがある一方、海外資本を取り込みにくいことや、製作費の増額に参加企業間の合意形成が必要になることなど課題も多い。

海外市場での競争力を高めるには、従来以上に大きな製作予算が必要になる。加えて、働き方改革や人件費の上昇により、制作現場のコストは今後さらに高まることが見込まれる。諸外国では投資マネーに加え、銀行融資、すなわちデットファイナンスも重要な資金調達手段として活用されている。

ただし、映画やアニメへの融資は金融機関にとって簡単ではない。作品が完成しないリスクや、完成後の販売・配信による回収見通しの不確実性があるためだ。海外では、こうしたリスクを抑える仕組みとして、完成保証が用いられることが多い。完成保証とは、作品があらかじめ定められた予算とスケジュールの範囲内で完成し、契約上求められる形で納品されることを支える仕組みである。

しかし、日本国内では、完成保証を前提に映画・アニメへの銀行融資を行う仕組みは、一般的な金融インフラとしてはまだ整備されていない。そこで今回の調査研究事業は、日本型のモデル構築の検証に取り組んでいる。

海外で活用されているフィルム・ファイナンスの仕組みを整理したうえで、日本で実装する場合にどのような形があり得るのかを検証する。海外の制度をそのまま移植するのではなく、日本の映画・アニメ産業の商慣習に合わせて設計することを目指すものだ。

出典:経済産業省 令和8年2月商務・サービスグループ 文化創造産業課「コンテンツ産業成長投資支援事業」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/PDF/260220/260220-1.pdf 赤枠は編集部が追加

検討体制には、三菱UFJ銀行に加え、GEM Partners、東京海上日動火災保険、Film Solutions、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが参加している。データ、製作モニタリング、保険制度など、各社の知見を持ち寄り、実務で活用可能なプロセスの具体化を進めていく。

同研究事業に携わる三菱UFJ銀行産業リサーチ&プロデュース部の中川敬太次長と小杉舞帆氏に、日本型フィルム・ファイナンスの可能性と課題について話を聞いた。

デットファイナンスのメリットとは

デットファイナンスは、出資と異なり、資金提供者が作品の権利や成功時の大きなアップサイドを直接取りにいく仕組みではない。銀行は原則として、融資した元本と利息が返済されれば、その時点で資金提供者としての役割を終える。

中川氏は、銀行融資の特徴についてこう説明する。

「銀行は、融資を通じて事業を支援し、元本と利息をご返済いただくことで適正なリターンを得るビジネスです。作品の成功時の大きなリターンを求めるわけではありません」

出資を受けた場合、作品が成功すれば契約に基づいて収益を分配する必要があるが、デットであれば元本と利息の返済後に生じる利益を、より多く製作者側に残すことができる。

デットのために必要な完成保証

完成保証とは、作品があらかじめ定められた予算とスケジュールの範囲内で完成し、配給会社や配信事業者などに納品されることを支える仕組みを指す。英語圏では、completion bond、またはcompletion guaranteeと呼ばれる。

完成保証は、「作品が完成すること」と「契約上求められる形で納品されること」を保証する仕組みだ。保証の対象はあくまで作品の完成・納品であり、公開後にヒットするか、十分な収益を上げるかを保証するものではない。

なぜ完成保証は必要なのか。

たとえば、ある配信事業者や配給会社と、完成後に作品を一定額で買い取る契約を結ぶ場合、その契約は将来のキャッシュフローとして見なせる。金融機関は、その契約に基づき融資を検討できる。

その際、金融機関が懸念するのは、返済原資となる作品がそもそも完成しないことだ。そこで、完成保証会社が、予算やスケジュール、制作体制を精査し、制作中も進行状況をモニタリングすることで、金融機関は融資を検討しやすくなる。

金融機関から見ると、完成保証は、融資の返済原資となる配給契約や配信契約が実際に履行されるための前提を支える仕組みといえる。

WIPO「IP Assets and Film Finance: A Primer on Standard Practices in the U.S.」、TroyGould「Motion Picture Completion Guarantee Structure」、Media Services「How To Bond a Film」などをもとに編集部作成。

米国型モデルをそのまま日本に移植できない理由

では、日本で完成保証を導入する場合、どのような形が想定されているのか。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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